梅田芸術劇場メインホール花組公演『二人だけの戦場』

4月30日(日)16:30公演 A席2階下手(友の会抽選)
5月   1日(月)16:30公演 S席1階上手(e-plus)
5月   6日(土)13:00公演 S席1階センター(梅芸抽選)

https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2023/futaridakenosenjou/index.html

 

戦争や争いの虚しさを日々の生活や恋愛を通して感じさせてくれるいいお芝居だった。「愛の不時着」と多くの共通点があるように思う。東京のチケットが1枚も取れなかったのが辛すぎる。東京の千秋楽カメラ1台定点でいいので配信してほしい(泣)。

・初見、冒頭のシンクレアの歌「孤独な戦い」の柚香光の声が苦悩に溢れていて歌詞の内容もあり早々に泣いてしまった(初演は観ていない)。
士官学校を卒業したシンクレアが理想に燃えて輝いているのが眩しい。柚香光はS1から打って変わってキラキラした青年の表情になっていて素晴らしい。白軍服の立ち姿が本当に軍人。
・自分が歳をとったとか時代がだんだんきな臭くなってきているとかで、軍服を着た男役さんを単純にかっこいいーと喜べない葛藤が自分の中にあって複雑。そして柚香光はそういう点を自覚しているような気がする。
・クリフォードとは本当に男同士の友情が醸し出されていていい感じ。柚香光と永久輝せあのコンビ、これから本当に楽しみ。バッサバッサ(笑)
・アルヴァを演じる希波らいとに何があった?と驚く成長ぶり。ナウオンによれば鎧を脱いでいった結果なのか。こういう成長を見れるのも宝塚の良さだなー。
・朝葉ことのもすごい良かった!私の中で草笛雅子、春風ひとみ、洲悠花レベルのいい女役さんになる期待でいっぱい。ベルバラのジャンヌで「♪あの女をギロチンに〜」を歌ってほしい。宝塚はどうしたってスター至上主義だけど、ファンは何十年たっても心に残る演技をしたジェンヌさんのことを忘れないものだし、そうやって記憶に残り続けるって素晴らしい仕事だと思う。なので座付作家はスター以外(というと語弊もあるが)も輝ける役をどんどん生み出していってほしい。今の中堅の座付作家はそこらへんが弱いと思う。
・シンクレアがライラが落としていったネックレスを届けてライラにつけてあげるところの少しドギマギした表情が初々しくて微笑ましい。つけれた後「できたっ!」と言ってサッと離れるところもかわいい。こういう細かい感情表現って役になりきっているからこそだと思うし、それを表現できる演技力があるからなんだろうな。手に刺さった棘を抜いてから思わず抱きしめようとする時とかすごいリアル。
・シュトロゼックが任意同行された後のライラとシンクレアのぶつかり合いはシンクレアが自分の無知ゆえの傲慢さに気づいた場面でもあったな...。たぶん民族虐殺的なことが過去にあってライラの母親がそれに巻き込まれたということを察して初めて自分の言動がいかに強い立場からの物言いだったのかということに気づくという流れがよかった。あまり説明的ではないので観る人によって色々な解釈がありそうだけど。でも最後にシンクレアが謝ることでシンクレアという人物を信じられる。
・シンクレア、クリフォード、アルヴァが「近くて遠い人々」を歌う場面はそれぞれの身悶えする感じが伝わってきて辛い。柴田 × 寺田は黄金コンビだけど、正塚 × 高橋城コンビが作り出す楽曲も名曲が多い。歌詞とメロディに感情を揺さぶられる。
・クェイド少佐を撃ったあとの演技と最前線で戦うダンスの時の柚香光の表情に狂気を感じた。本物の役者はすべからく狂気を演じることができるべきだと思うけどそれを宝塚で観れるとは。この演目だから出来たことかもしれないけど宝塚にいながらリミッターを外した柚香光の勇気に感服する。
・再会の場面は毎回ハンカチが必要だった。それまで希望のない暗い目をしていたのにライラに会ってから徐々に(この徐々にというのがすごい)目に力が戻ってきて若々しい表情になるので、観ていて本当によかったという感情になる。
・柚香光のベースメークが薄塗りなのに綺麗で素敵だったけど、TAKARAZUKA NEWSを観る限り『舞姫』の聖乃あすかのベースも同じように見えたので、何か柚香氏からのサジェスチョンがあったのかな?
・アンコールのダンスはみなさんキレッキレで素晴らしい。

あー、ライラじゃないけど覚えているつもりでもどうしても少し思い出せない箇所があるの(悲)。劇団のご担当の方々、どうか早めに歌の配信を開始してブルーレイを発売してください。よろシンクレア(言いたい)。ブルーレイはもちろん購入しますが、気軽に再生できるという利点があるので初演のように実況CDも発売してほしいなー。

大学時代の友人たちと話していた時に最近の台湾をめぐる様々な情勢についての話題になり、友人の1人がもし中国が日本を攻める姿勢をみせるのであれば反撃するべきだと気軽に言ったことがショックだったんだけど、そういう考え方をする人たち(このお芝居で言えばクェイド少佐的な人たち)は少なくないんだろうな...。いったん戦争が起きたら自分たちの生活にどういう影響が及ぶのかという事に対する想像力が不足しているのではと思わざるをえない。そういう意味でフィクションが果たす役割はまだまだあると思う。梅田の千秋楽に花組ポーズをして喜べるのは平和があってこそということをいつもより強く感じた次第。